こんにちは、ヘンリーです。
先般公開した記事で、レムデシビルの全世界への供給に対しボトルネックになるのは原材料ではないかという見解を示しました。
レムデシビルの原材料は広栄化学工業という日本の企業が生産しているので、本記事ではその日本企業を取り上げたいと思います。
注目の的 広栄化学工業
広栄化学工業は東京に本社を置く化学品製造会社です。
住友化学が半数以上の株式を保有する住友化学のグループ会社になります。
新型コロナウイルスの治療薬の原材料を生産する会社として、一躍有名になっています。
(ファンダメンタルズ:2019年度)
売上:183.1億円
営業利益:11.7億円
純利益:9.6億円
純利益率5%程度と、日本の企業からすると平均的な水準です。
この広栄化学工業が生産するレムデシビルの原材料とはどんなものなのか、確認していきます。
レムデシビルの原材料
レムデシビルは、ピロールという化合物から生産されます。
ピロールは分類上アンモニアと同じアミン類に分類されるたねめ、アンモニアの親戚のようなものと理解すれば良いと思います。
アミン類はレムデシビル以外の医薬品の原材料ともなるだけでなく、半導体や金属洗浄剤にも使われています。
製造工場は主力工場の千葉工場で、千葉工場はアミン類だけでなく、多価アルコール類、ピリジン塩基類、ピラジン類など様々な化学製品を製造しているようです。
ここでさらに注目すべきは、ピリジンでしょう。
ピリジンはレムデシビルと同じく治療薬候補として名前が上がっている「アビガン」の原材料であり、広栄化学は両医薬品の原材料を生産していることになります。
これが、広栄化学が今非常に世間の注目を浴びている理由となっています。
https://www.koeichem.com/dcms_media/other/20200430release4367.pdf
注目すべき点
広栄化学工業の銘柄分析であったり同社に投資すべきかということについては、すでに多くのブログで述べられていると思いますので、ここではあくまで投資家目線で、他の人があまり注目していない部分を取り上げたいと思います。
それは、上記ニュースリリースでの
「これら(レムデシビルの原材料ピロールとアビガンの原材料ピリジンのこと。ヘンリー注)を安定供給することを社会的責務ととらえ、「ピロール」および「ピリジン」の生産体制を強化いたしました。」
という部分です。
この背景としてギリアドから直接増産の依頼を受けたとも報じられており、全世界から注目を集めています。
まず、レムデシビルの原材料確保のため、生産体制を強化するのは非常に社会的意義があると思います。これは、誰も否定しようがないでしょう。
ギリアドにも、ビジネス以前にこの社会的意義の面は忘れてほしくありません。
(これは次の記事で詳細を書きます。)
株主=オーナーから見た疑問点?
その上で、出てくる疑問は以下、
「レムデシビルの原材料を生産するのは意義のある行為だが、このためだけに生産体制を増強して会社として問題がないのか。新型肺炎が収束すれば設備が遊休化するのではないか。」
ということです。
すでにTwitterでも議論が開始されていました。
一市民として見たときにこの疑問は義憤を感じる部分もありますが、投資家(というよりはオーナー)として見るとどうでしょうか。
自分のお金で同じことをするか?と聞かれるといくら社会的に意義のあることといえ即答はできないと思います。
少なくとも疑問を持つことはありうると思うので、この疑問に私なりの答えを出したいと思います。
私の考え
私の答えは、「全く問題なし」です。全世界のためにも、ぜひ、やってほしいと思います。
理由はシンプルで、「中期経営計画でアミン類の能力増強投資は計画済だから」です。
すなわち、今回の一件により急きょ決定した追加の設備投資ではない、からです。
2021年中期経営計画
広栄化学工業は2019年に2021年に向けた中期経営計画を策定しています。
その中で2021年にかけて150億円の設備投資を計画しており、主な内容は①新マルチプラント建設②アミンプラント再構築となっています。
当然ここで注目すべきは、②のアミンプラント再構築です。
反応エリアを除くSAプラント全体を再構築し、抜本的な近代化を図る。
SAをスマートな近代化プラントへ生まれ変わらせ 、創出した付加価値でアミン事業の競争力を強化。
当初よりアミンプラントの再構築は計画されており、2018年度の有価証券報告書にも、以下の通り記載されています。
「今回の再構築では、主要機器の抜本的な更新を予定しており、この更新を機に、生産性向上、自動化、省力化及び安全性強化を図り、アミン事業の競争力を強化いたします。2019年度に着手し、2024年度にすべての更新が完了する予定です。」
したがって今回の能力増強投資は、今回の新型コロナウイルスにより1から追加で行うものではなく、当初の計画(の微修正)をベースに行われるものになるはずです。
さらに中期経営計画の設備投資規模は、3年で150億円なので、単純計算で1年50億円です。50億円というと広栄化学の売上の3割、純利益の5年分に当たります。それを3年続けるわけですから、相当、大きな額です。
これがすべてアミンプラントに向けられるわけではないでしょうが、当初計画の規模の大きさは理解いただけると思います。
なので投資家としても、今回の一件を不安視する必要はない、と私は思います。
がんばれ、広栄化学。全員で応援しましょう。
医薬品然り、半導体然り、様々な分野で縁の下の力持ちになっている日本企業の要素技術は、本当に高いんですね。
治療薬生産体制の確立へ
なんと言ってもレムデシビルは現在認められている唯一の治療薬になります。
これを全世界に供給することが、一刻も早く求められており、原材料供給体制の確立もも待ったなしの状態です。
ただ、同時に肝に銘じておくべきは、広栄化学もまた、すべてを1から作り出せるわけではない、ということです。ピロールは化合物である以上、それにも原材料が存在します。
今は「ピロールの原材料(原料)」から「レムデシビルの原材料」であるピロールを製造している広栄化学が注目されていますが、ピロールの原材料を供給して支えている企業も多数いるはずです。
(有価証券報告書を見る限り、広栄化学の主な原材料仕入先は住友化学となっていますが、その先にも枝葉のように広がっていると理解しています。特に今回は、社内生産していた原料も購入に切り替えるようです。)
そうした企業にも、感謝の気持ちを忘れずに過ごしたいと思います。
それでは。