20代平凡リーマン(ヘンリー)の米国株式投資

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20代の平凡サラリーマンが株式投資(主に米国株)に奮闘するブログです。戦績開示、個別銘柄分析など。

ギリアド レムデシビルの供給拡大についてコメント その2

こんにちは、ヘンリーです。

 

昨日の記事で、ギリアドがレムデシビルの供給拡大についてコメントしたことを紹介しました。

そのギリアドのコメントの中に、投資家が注視しておく点があったので記事にして紹介します。

godolphin.hatenablog.com

 

 

レムデシビルを全世界に供給 その前提

ギリアドはレムデシビルを全世界へ供給すべく、生産体制を拡充させることを述べました。

その中で、非常にギリアドの意図を感じさせるフレーズがあります。

ギリアドのコメント

「ギリアドの最終目標は、各国政府と罹患者にレムデシビルを無理ない価格(affordable)で行き渡らせること。」

(原文)

Gilead’s overarching goal is to make remdesivir both accessible and affordable to governments and patients around the world, where authorized by regulatory authorities.

これは冒頭の一文。ここで注目すべき単語は、私の訳中に()付きで示したとおり、「affordable」です。
みなさんも注目されていたと思います。

私は「無理のない価格で」と訳しましたが、ケンブリッジ英英辞典によると、「affordable」とは、

「not expensive」
(高価ではない)

「able to be bought or rented by people who do not earn a lot of money」
(存分にお金を稼いでない人でも購入したり借りたり(家を想定)できる)

とあります。

すなわちギリアドがここで言いたいのは、レムデシビルは「無償ではない」が、「普通の人でも手の届く価格」ということです。

湧いてくる疑問

鋭い皆さんであれば、

「あれ?affordableということは有料なの?」

「ギリアドはレムデシビルを無償提供するのでは?」

という疑問が出てくると思います。

ギリアドがあえてaffordableという単語を使ったのはどういう意図なのでしょうか。

無償提供の数

まずはレムデシビルが無償提供なのか有料なのかということについて見ていきます。

これはギリアドの発表を見れば一目瞭然です。

investors.gilead.com

該当する箇所を引用しましょう。

As previously announced, Gilead has donated the entirety of its existing supply of finished and unfinished product to help address the urgent medical needs posed by this pandemic around the world.Assuming a 10-day treatment course, Gilead’s donation of 1.5 million individual doses of remdesivir equates to more than 140,000 treatment courses that will be provided at no cost to treat patients following potential emergency authorizations and regulatory approvals, including this EUA.

(同発表の要旨は以下で紹介中)

godolphin.hatenablog.com

はい。ここです。

「Gilead’s donation of 1.5 million individual doses of remdesivir equates to more than 140,000 treatment courses」 

→ギリアドは14万人以上の治療に相当する150万回分のレムデシビルを無償提供(寄付)する。

 

あくまでギリアドが無償提供するとしているのは、「150万回分のみ」です。

注意してほしいのは、150万人分ではありません。150万です。

レムデシビルは1回投与するだけで効果が見込めるというものではなく、今の臨床結果だと少なくとも5日(最長10日)投与すべき、とされています。

ギリアドの発表における前提は「1患者あたり10回投与する」ということなので、単純計算だと15万人分しか無償提供はありません。

(ギリアドは余裕率を見て14万人以上と書いているのだと思います。)

15万人分というと、アメリカの罹患者が130万人なので、その10分の1程度です。ただしレムデシビルは基本的に重症者に使用されます。

そしてこの15万人分のレムデシビルの配分を決めるのは、ギリアドが設置する第三者委員会です。

この15万人分のうちどれだけが日本に配分されるかは、明らかになっていません。日本に配分されたものは、国の管理で各医療機関に配られます。

www.nikkei.com

www.nikkei.com

ギリアドの意図

ギリアドはかつて、C型肝炎治療薬のハーボニーやソバルディで高価な薬価を設定し、世間から批判を浴びました。
今回は同じ轍を踏まないよう、非常に神経を尖らせているように見えます。

(参考) 

godolphin.hatenablog.com

ギリアドも営利企業ですから、利益を追求するのは当然のことです。一方でそれだけを追い求めると、世間の評判は地に落ち、厳しい視線が向けられ、株価はアウトパフォームします。

この見えづらく、複雑な世間の視線が、今のギリアドを縛っています。

今のギリアドにとって最も困るのは、世間から盲目的にレムデシビルを全患者分無償提供すると勘違いされること、です。

一市民からすると、「無償提供するといったじゃないか。この期に及んで金儲けしか頭にない。やはりギリアドはけしからん。」

となり、

投資家からすると、「なぜこの千載一遇の機会をふいにするんだ。高くても使用されるのはそれだけ価値があるからだろう。オーナーたる株主を疎かにしているのか。もうお金は出さん。」

となるからです。

 

したがって「affordable」という単語を使うことによって、 

①世間にはまず「恒久的に無償提供ではないですよ」

ということを暗に示し(特に投資家を安心させ)

②「ただし普通の人が手が出せない価格にするつもりではありません」

と市民に伝え(affordableは往々にしてプラスのニュアンスがある)

③「かといって全く利益を出さないわけではありません」

と投資家に牽制球を投げているのでしょう。

「affordable」とは、なかなかうまい単語を使ったと思います。

 

まとめると、ギリアドの意図を一言で言えば、

 「本当はレムデシビルを商用化し(レムデシビルで利益を得)て投資家に報い、株価上昇につなげたいが、その意図が見え透いたり、実際高すぎる薬価を設定したりして再び世間の批判を浴びたくない。」

だと思います。

ギリアドがレムデシビルの商用化にこだわるのは、無論ギリアドの体質的な部分もあるのでしょうが、レムデシビルの臨床試験・生産体制拡充に莫大なお金をつぎ込んだからという側面もあるでしょう。

2020 1Qカンファレンスコールにて

以上のことは、ギリアドの2020 1Qカンファレンスコールからわかります。

ギリアドはアナリストからしきりに「レムデシビルの売上・利益への貢献は?」と質問を受けましたが、「先行きは見通せないのでコメントできない」と全てスルーしました。代わりに、レムデシビルに対して投下した費用については金額を回答しています。

総じて、非常に苦しい受け答えでした。

www.fool.com

原文は以下。

(オデイCEO)

On the revenue side, it is just as Andy mentioned also and I mentioned, it's too premature. You know there's a lot of moving parts right now.

「(レムデシビルが寄与する)売上について公表するのは、アンディ(ギリアドのCFO)と私が先般言及した通りで、時期尚早でしょう。ご存知の通り、今は変数があまりにも多すぎます。

(オデイCEO)

On the expense side, Andy, I mean, obviously you had mentioned already that up to $1 billion

「(レムデシビルに投下した)支出については、アンディが言及したとおり、10億ドル(1100億円弱)です。」 

 

このあとアナリストからは「1000億円以上も使っているのに売上への貢献は不明ですか。面白いですね。」と皮肉られていました。

こうしたこともあり、ずっと無償提供するつもりはないと改めて表明したのだと思います。

また、「今回は儲けないつもりか?」と、C型肝炎薬やHIV治療薬、タミフルで大儲けした過去との比較も質問されています。

(アナリストの質問)

Gilead has generated effective returns for investors and effective return on capital from treating hepatitis C and potentially nearly eliminating hepatitis C from treating HIV and turning it into a chronic disease, and to building a really important global stockpile of antiviral for influenza. So, what's special about COVID?

「ギリアドはこれまでC型肝炎薬やHIV治療薬で素晴らしいリターンを上げてきましたし、インフルエンザ治療薬の備蓄も積み上げています。新型コロナウイルスに対しては過去のこれらと違うこと(≒ 儲けない、と解釈)をするつもりなんでしょうか?(要点のみをかなり意訳)」

(オデイCEO)

You mentioned some parallels to HIV, HCV even Tamiflu. But there's been no other time like this in the history of the planet than any of us have been alive...I guess the short answer to your question is, I don't think there is a precedent to this.

「C型肝炎他と同列に論じているのでしょうが、今回のような出来事は人類史上初めてだと思っています。質問に端的に答えるとすると、「前例のないことだ」(=だから比べられない)ということでしょうか。」

 

やはり、アナリストへの回答に少し窮していました。

ギリアドに期待すること

世界が危機的状況にある中、唯一の治療薬を持つ企業として、現時点ギリアドは臨機応変に対応していると思います。

はじめから無償提供の数は限定的であることを発表していましたが、各方面に誤解されかねないと悟ると、わざとらしくない方法でそれを示そうとしています。

 

私が一投資家として述べれば、ギリアドには今回の一件を機にますます研究開発に費用を投下してほしいと思います。

冷たく言ってしまえば、あくまでレムデシビルは「棚ぼた」です。本来はエボラ出血熱の治療薬として開発を進めてきた薬が、たまたま新型コロナウイルスに有効かもしれない、となって承認されたにすぎません。

ただしそれは、抗ウイルス薬の研究開発を続けてきたからこそストックがあったからです。今後も同様に、当初治癒を目的とした病気に対してではないけれども、別の病気に対して有効である、という薬が出てくるかもしれません。

今回の新型コロナウイルス以外にも、過去たくさんのウイルスがありました。その時も1つ1つ苦難を克服していくことで人類は前に進み、繁栄して今に至ります。

その気概を忘れずに、ビジネスを続けてほしいと思います。 

それでは。

 

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